仏教の目的は「苦からの解脱(げだつ)」です。
「苦」というのは単に「苦しい」というだけの意味ではありません。
「苦」は「思い通りにならない」ということです。
ですから、もしあなたが順風満帆の人生を歩み、
「すべてうまくいっている!満足だ!」と思っておられるのでしたら、
今のあなたに仏教は必要ないでしょう。
世間の価値観に乗ることができていれば、
それはそれでいいのです。
でもそこからはみ出さざるを得ない時に、
「異なる価値観」があると助かると思いませんか?
さして問題なく生きている時には仏教の必要性は感じにくいでしょう。
私(法輪寺住職)も佛教大学へ通う学生時代、
「仏教は苦だとか思い通りにならないとか、
悲観的なことばかり言うから受け入れられないんだ」
と思っていました。
「もっと明るいことを言えばいいのに」
と考えていました。
当時は取り立てて悩みもなく、
比較的思い通りになっている、と感じていたのかもしれません。
また、世の中がバブル景気で浮かれていたので、
「苦からの解脱」などと言うことを野暮に感じていたのでしょう。
世間の価値観は「強い」をヨシとし、「弱い」はダメ。
「勝ち」はよくて「負け」はダメ。
「成功」がよくて「失敗」はダメ。
「上位」がよくて「下位」はダメ。
「富」がよくて「貧」はダメ。
「美」がよくて「醜」はダメ。
「健康」がよくて「病」はダメ。
「若さ」がよくて「老い」はダメ。
「生きる」がよくて「死ぬ」がダメ。
このような二項対立の価値観を挙げればキリがありません。
多かれ少なかれこのような価値観を
生まれたときからずっと擦り込まれて、
大人になればすっかりそれが私の一部となっています。
『ブッダとは誰か』
吹田隆道