2025年1月31日金曜日

2月前半のことば

 2月前半のことば

「ゆく川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず」

                 鴨長明


 川の流れが絶え間なく変わるように、私たちも常に変化しています。昨日の私たちと今日の私たちは、一見同じように見えても実は異なっています。身体をつくる要素は絶えず変わり、細胞も日々新陳代謝を繰り返しています。例えば、腸内の細胞や皮膚は数日から数週間で入れ替わるとされています。

 また、日々の出会いや別れ、経験、体験を通じて、心も常に変化しています。気難しかった人が穏やかになったり、優しかった人が傲慢になることもあります。これも自然な変化の一部です。

 人間関係においても変化は常に存在します。かつて仲の良かった人と疎遠になったり、苦手だと思っていた人と親しくなることもあるでしょう。

 腹に据えかねることがあっても、時間が経つとどうでもよくなることもあります。過去の失敗をずっと引きずっていたのに、そのことを誰も覚えておらず、馬鹿らしく感じることもあります。

 老病死といった避けたい変化もあれば、成長や進歩といった歓迎する変化もあります。どちらも川の流れのように絶えず続いていくのです。都合の悪い変化をすべて受け入れるのは難しいことですが、「すべては変化するもの」という意識を持つことは、生きていく上で大切なことなのです。

2025年1月14日火曜日

 1月後半のことば

「凡夫ゆえ 信仰にゆらぎはあるもの」


 もう10年になります。尊敬する先輩僧侶が極楽浄土へ往生されました。細菌に体を蝕まれ、わずか43日の闘病後の往生でした。

 愛嬌のある語り口と風貌に似合わず、教えに対する姿勢はとことん厳しい方でした。しかし打算のない人柄は人を引きつけて止みません。お悔やみに駆けつけたお檀家さんが口々に「私の一番の味方でした」とおっしゃり、私もそう思い、多くの仲間や後輩達が感じていました。

 あまりに突然の訃報に多くの人々は混乱しつつも、先輩からいただいた言葉を反芻し、阿弥陀さまと人を繋げることに一生を捧げた姿勢に思いを馳せたのでした。

 発病の2週間前に、先輩がある勉強会の司会をされた音源があります。

 「阿弥陀さまが見守ってくれたはる!と思ってるんですけどね、時々心が揺れるんですよ。こんなことして何になるんやろか?念仏してる時間あったら、もうちょっと嫁さんを大事にしてやった方がええんと違うやろか?と迷う自分がおるんです。でもね、例えば切れかけた蛍光灯は点いたり消えたりするけど、切れてないでしょ?それと同じで信仰も点いたり消えたりしてしまうんですよ。そやけど、そんな弱い私を見捨てへんのが阿弥陀さまなんですよね?!」先輩の闘病中に車を運転しながらこの言葉を聞き、涙が溢れて前が見えなくなってしまいました。

 無常の世とは言いながら、先輩ご自身がそのような最期を望んだはずはありません。もっとしたいことも言いたいこともたくさんあったに違いない。しかし今ご自分自身が生死を彷徨う中、仏さまのことをつい忘れてしまう、ゆらいで止まない弱い信心の者さえも見捨てない阿弥陀さまをどれほど頼もしく拝まれたことでしょう。

 たとえ私の方が忘れても、阿弥陀さまは私を忘れない。まるで親が一人っ子のことを思うように、心配して見つめ続けてくださっています。私たちが嬉しい時も悲しい時も、楽しい時も辛い時も、見守り続けてくださっている。「我が名を呼べよ。南無阿弥陀仏と称えよ。必ず救うぞ」という誓いを成就され、呼びかけてくださっています。そして念仏を称える者を一人たりとも漏らすことなく極楽浄土へ救い取ってくださるのです。

2025年1月1日水曜日

1月前半のことば

1月前半のことば

「のどかなり 願いなき身の 初詣」


 私たちは日々、多くの願いや悩みを抱えています。仕事での成功を願ったり、家族の健康を祈ったり。その願いを成就させたり、悩みを解消したりするために、初詣で神仏に祈る方も多いことでしょう。

 なぜ私たちが願いや悩みを持つのかと考えると、それは人生が「思い通りにならない」からだと言えます。家族との不和が続いたり、長年の努力が認められずに失意のうちに職を失ったり、深刻な経済的困難に直面することもあるでしょう。また、親しい人を失う悲しみや、人間関係の破綻などもあります。この「思い通りにならない」状態を仏教では「苦」と呼びます。

 仏さまを拝んでいると、思い通りにならないことを思い通りにしようとしている自分に気づくことがあります。その時、私たちは「自分でできる手立てはあるのか」「悩んで解決する問題なのか」「他者を自分の都合のよいように変えようとしていないか」などと自分の願いや悩みを見つめ直すことができるのです。

 「今年は何も願うことがないな」と感じるとき、それはもしかしたらあなたが今、思い通りにならないことを思い通りにしようとしていない、ということなのかもしれませんね。 

3月前半のことば

 3月前半のことば 「只申せ 重き誓いのしるしには 人えらびなく 必得往生」     現在、多くの国で国民の「分断」が問題となっています。人種、宗教、イデオロギー、所得格差、教育格差など、立場や考え方の違いを受け入れることが難しくなっているのです。お互いが自分の正義を絶対だと思い...