5月前半のことば
「まずはやる」 井上智之
平成27年に極楽浄土へ往生された京都北山清水寺の一代、井上智之上人がよくおっしゃっていた言葉があります。
「まずはやる」——この短く力強い言葉には、日々の暮らしを新たに開く鍵が隠されています。
私たちは誰しも心の中で何度となく、「こんなことをしたら、笑われるのではないか」「失敗したら恥ずかしいからやめておこう」と思った経験があるでしょう。他者の目を気にして、自らの行動を抑え込んでしまう。そのような心の癖は、前途有望な若い人たちにもしばしば見られます。経験や理解の不足が、行動への一歩を躊躇させる要因となるのです。
そんな彼らに、井上上人は静かに、しかし揺るぎない声で語りかけておられました。「まずはやる」と。
仏教の教えによれば、私たちの未来は自分自身の「行い」と、それを取り巻く「縁」によって構築されるものです。行いが変われば、縁もまた変わります。そして、良い縁に囲まれるためには、何よりもまず自らの行いを変えていかなければならないのです。この理を裏付けるものとして、井上上人の言葉は非常に説得力を持つものとなっています。
確かに、目の前の結果が期待外れに見えることもあるでしょう。しかしながら、善き行いを積み重ねれば、未来は間違いなく善き方向へと動いていきます。たとえ今、その結果がすぐに現れなくても、あきらめず行動を続けること、それが何よりも重要です。
恐れや迷いを抱えながらも、勇気を持って最初の一歩を踏み出す。その一歩こそが、私たちの歩む道筋を新たに切り拓いてくれるのです。そしてそこから生まれる経験や学びこそが、次なる一歩を後押しし、私たちの人生を豊穣たらしめるのです。
井上上人の言葉を思い起こしながら、「まずはやる」——その覚悟が、私たちの人生をより実りあるものへと導いてくれるのではないでしょうか。