2020年5月10日日曜日

お釈迦様のご生涯⑥(梵天勧請・初転法輪)

お釈迦さまはご自身が覚られて、

その悦びをゆっくりと味わっておられました。

お釈迦さまはご自身があらゆる苦しみから

逃れるために修行してこられました。

その目的は達成されました。

すべての苦しみから逃れることができた。

覚りの境地に到達した。

瞑想を続けて、その境地をしみじみと味わっておられたのです。

そんなお釈迦さまの元に、

この世界の主と言われる梵天さまが現れて、
「どうかお釈迦さま、煩悩だかけの人々に

教えを伝え導いてください。お願いします。」

と説法を勧めてくださました。

しかし煩悩だらけの心を持った人々にこの教えを伝えても、

恐らく人々は理解することができないであろう。

覚っていない者に覚りの境地を説いても理解できないであろう。

覚りの境地を言葉にしたり文字にすると、必ず誤解を生むであろう。

「言葉にすれば嘘に染まる」という歌がありましたが、その通りです。

覚りの境地は言葉になりません。

それならば、このまま自分は覚りの悦びを味わったまま、

人には伝えずに命尽きるまで過ごそう、とお考えになりました。

しかし梵天さまは三度に亘ってお釈迦さまにお願いされます。

三顧の礼です。

梵天の願いに応えて、お釈迦さまは説法の

決意を固められたといいます。

このエピソードは、お釈迦さまご自身の心の中の

葛藤を表すとも言われていますが、

いずれにせよ、お釈迦さまが人々に

教えを伝える決意をなさったからこそ、

我々はこうやって仏教の教えを知ることができるのであります。

説法の決意をされたお釈迦さまは、

まず最初に誰に説法しようかとお考えになりました。

まったく救いを求めていない人よりは、

救いを求めて努力している人の方が最初はいいだろう、

と思われて、5人の修行者を思い出しました。

皆さん、5人の修行者を覚えておられますか?

〈お釈迦さまのご生涯④(出家)参照〉


シュッドーダナ王がシッダールタ王子を心配して

5人の家来を送り込んだのですね。

その修行者たちはその内に本気で修行にのめり込んで

覚りを求めるようになられました。

シッダールタ王子とは苦行仲間としてお互い研鑽されていたんですね。

ところがシッダールタ王子は

「極端な修行では覚ることができない」と気づかれて、

スジャータから乳がゆをもらって、

体を癒やして改めて瞑想に入って覚りに至られたわけです。

しかし5人の修行者は王子が乳がゆを飲まれた時点で

「彼は堕落した」と勘違いして離れていくわけです。

その後王子が覚りに至ってお釈迦様となられたことを知らないんですよ。

お釈迦様はブッダガヤから約200キロもの道のりを、

5人の修行者がいるサールナートまでやってきました。

サールナートというところは、バラナシーという

ヒンズー教の聖地に近いところです。

バラナシーは昔はベナレスと呼ばれていました。

いわゆる皆さんがイメージする「ガンジス川」、

ヒンズー教の方が川の中に入って身を清めたり、

亡くなった方が火葬されて聖なるガンジス川に流されていくのを

テレビなどでもごらんになったこともおありではありませんか?

あのバラナシーからバスに乗って30分ほどのところにサールナートがあります。

5人の修行者を探して200キロの道のりを

10日かけてお釈迦さまはやってこられました。

5人の修行者はお釈迦さまの姿を見つけてささやき合いました。

「あそこからシッダールタがやってくるが、彼は堕落した男だ。

ここへやってきても礼を尽くす必要もない。

まあ遠くから来たのだから座るぐらいは許してやってもよかろう。」

ところがお釈迦様が近づいてこられると、

一人はお釈迦様の足を洗う水を持ってきて、

一人は座席をつくり、一人は足を拭く布をもってきてもてなしました。

覚りを得て威厳に満ちたお釈迦さまのお姿を見て、体が自然に動いたのです。

お釈迦さまは

「あなたたちは私の顔色がこのように輝いているのを

今まで見たことがありますか?」

と尋ねられました。

彼らは

「こんなに晴れ晴れとしたお顔を見たことはありません。」

と答えました。

お釈迦さまは

「私は覚ったのだ。これからは私を友と呼んではいけない」

とおっしゃり、

それを聞いた彼らはその姿の尊さに感激して説法を聞きました。 

『神々との対話』
中村元訳
                   

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